【マドロミの単語帳】♯07:笑い
こんな夢をみた。
隣に住んでいる大家さんに家賃を払いに行くと、
地下室から妙な声がするので見てきてほしいと言われた。
しょうがないので懐中電灯をもって階段を下りていくと、
(古い建物にエレベーターなんてものは無いのである。)
「くくく…」
地下の駐輪スペースのど真ん中に何かが見えた。
「ははは…」
汚れた非常灯が映し出すその人影には、
「くはははははっ。」
ヤギのような捻じれた角、やたら宝石のついた大きな杖(いや、錫か?)、大仰なマント。
…魔王。
そう、一言でいうと魔王スタイルの男が、一人で楽しそうに笑っていたのだった。
床にはチョークで殴り書きされた五芒星。
どうやら、大家さんが趣味で書いた魔法陣から召還されてしまったようである。
現世(地下室だけど)に出られたことが嬉しいのか、
彼は私に気づかず、笑いの三段活用を続けている。
私は五芒星の”Τετραγράμματον”が消えていないことを確認すると、
神と精霊に祈りをささげ、呟いた。
「…MALOR。」
「はははは……は?」
彼は次の瞬間、霧のように消えていた。
五芒星を照らす非常灯が寂しげに揺れるなか、
私は魔法陣に近寄り、それを足でゾンザイに消した。
…そんな夢を見た。
◆
※単語08:わらい【笑い】
貴方にとっての常識(シェーマ)との差異を警告するための反応の一つ。
ありえない言葉の組み合わせ、意外な行動、
理解できないほど深い恐怖や危機の時も人は笑う。
それも考えてみれば当たり前のことだ。
『笑』——この文字は元来「巫女が神へ捧げる舞」の様子から来ているのだから。
人知の及ばないモノと対峙したとき、人は笑うしかない。
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(上記はすべてフィクションであり、
特定の人物、団体、単語等とは一切関係ありません。)
文章:U
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