【マドロミの単語帳】♯06:wordS

【マドロミの単語帳】♯06:wordS

こんな夢をみた。

午後11時54分、週末。
ネオンは輝き、信号は休むことなく瞬き、
そして人は束の間の休息と解放を胸に散らばっていく。

都心地下のBAR「TEMPERANCE」。
そこの最奥のボックス席に僕たちは居た。

「あーあ、しかしホントクソですよ。
 だって、後1本(1000万)は取れたところ、
 アイツ等のカバーに入んなきゃならなかったわけで。
 もうホント、クソみてえに使えねえヤツラですよ…f3。」

厳ついほどにシャープなシルエットが特徴的なゼニアのスーツにシャネルのエゴイスト。
叫ぶ唾が目の前のシーブリーズのグラス(既に空だ)を汚すのも気にせず、
喚いている若造が僕だった。

「そっかー、それは大変だったねえ。よしよし…e5。」

スワロフスキーのチェスボードを挟んで座っているのは一人の女性。
艶やかな黒髪に優しげなオーパル型の眼鏡(香港の軒先で買ったと言っていた)。
ユニクロで買ってきたと思われる黒のジャージ。
胸のジッパーが苦しそうなくらい撓(たわわ)に熟れた肉体からは
仄かに石鹸の香りがふわりと立ち上っている。
そして、彼女の目の前に置かれたラガヴーリン。

そんな大凡(おおよそ)似つかわしくない組み合わせの二人が
BARでチェスをしている。
それは2人とっては大凡ありふれた週末だった。

「ダメなら事前に言えっての!ホントクソ使えねえ…g4。」
「君のチーム中年以上のオヤジさんばっかりなのにね…」
「ホントですよ。無能ジジイばかりウチに回ってくるのって何かあるんですかねえ?」
「うーん。君も大変だねえ。ところで…。」

私が首をひねると彼女は黒のクイーンを盤上に展開した。

「Qh4…チェックメイト、だよ。」
「なっ…。」
「ふふ、フールズメイト(ケアレスミスを利用したハメ手)とは油断したね。」
「g4ポーンが悪手だったんですね…。」
「そそ、何気なく指しちゃったでしょ?」
「うーん、すみません…。」
「盤面(ボード)も見ず、駒運用も怪しかったから、使わせてもらったの。」
「狙い通り、ってことですね…。」
「そそ、だって…」

一息吐くと駒を並べなおしながら、彼女は言った。

「駒を大切にしない人に負けるわけにはいかないから、ね。」

彼女の眼の奥がギラリ、と鋭く輝いたような気がした。
僕は無性に喉が渇いてシーブリーズに手を出したが、空だった。

「いいわよ、飲んで。」

僕は彼女に差し出されたラガヴーリンをゴクリと飲み干した。

鼻から抜ける焦がした正露丸のような異臭と焼け付く熱情。

その個性的な体験に泣き出しそうになった僕に彼女は言った。

「ふふ、それがオトナの味よ。」

…そんな夢を見た。

※単語07:Word【わーど(言葉)】

大気を振動させ、想いを伝播するイキモノのワザ。
今日も世界は震え、
今日も人は泣き、笑い、学び、そして生きている。
古の教えによれば、特に沢山の言葉(wordS)は凶器(Sword)であるという。
細心の注意を払い使うべし。


(上記はすべてフィクションであり、
 特定の人物、団体、単語等とは一切関係ありません。)

文章:U

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