【マドロミの単語帳】♯13:鎮魂歌
…こんな夢を見た。
手にはべっとりと重い汗。
背中を無数の蜘蛛が這いずり回るような感覚。
視界がどんよりと曇って、世界がよく見えない。
そんなときは、
そんなときは静かに息を吸って目を閉じる。
そして彼女のことを思い出す。
木漏れ日のように微笑んでいた彼女。
菫の香りと共に抱きしめてくれた彼女。
何気ないものをくれた彼女。
走る汗が綺麗だった彼女。
チェスのナイトを摘む細い指先の彼女。
そして今の彼女。
そこまで思い出して、私はゆっくりと。
本当にゆっくりと息を吐く。
もうこれ以上ないというくらいに吐き続ける。
体中の全ての酸素が無くなって、
萎んで居なくなってしまいそうなくらい、
ゆっくりと、本当にゆっくりと深く。
最後に彼女の唇の感覚を、そのすべてと共に思い出す。
そして目を開ける。
もう大丈夫だ。
雨はもう止んだ。
世界はこんなにも晴れている。
…そんな夢を見た。
◆
※単語14:ちんこんか【鎮魂歌】
それは静かに眠るもの達への唄。
それは生き残っている人のための詩。
それは悪しき叫びを鎮めるための歌。
それは時として胸を突き動かす唱。
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(上記はすべてフィクションであり、
特定の人物、団体、単語等とは一切関係ありません。)
文章:U
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