Chess-themed Fiction:I.F.(Isolated ♟ had a friend called ♕)
♯01 Checkmate!
なにがあろうとも、ギャレオン窪地にいれば、
世界は、ふたりとともにありました。
-『プー横丁にたった家』-
◇♟♕◇
「さあ、楽しみましょう。」
震える手を押さえて僕は子豚の形をしたポーンを手にとった。
臆病だった兵士は勇気を振り絞って進みだした。
◇♟♕◇
白い部屋にあるテーブルに向かい合って、
僕と彼女は座っていた。
テーブルには木製のチェスボード。
木彫りの熊やカンガルーをモチーフとした可愛らしい駒が
戦場を駆け巡っている最中だった。
冬の訪れが近い港町にある病院の部屋で、僕たちはチェスを指していた。
そこにあるのは駒とチェスクロックを撫でる音、
そして古い木目調のレコードプレーヤーから流れるドビュッシーだけ。
ほかには誰もいない白い部屋は黄昏の紅で満ちていた。
少しだけ開いた窓から潮の香りを含んだ冷たい風が吹いてきているにも関わらず、
汗は頬を伝い、ゆっくりと床を濡らしていった。
冷え切った部屋の熱源は、
絡み合うアラベスクの調べに乗せて指し続けている。
(d4,d5,c4………xc4。)
駒が交差するたびに、消えていく兵士達。
ポーンが進み、ビショップが流れ、ナイトが跳ねる。
彼女の柔らかい黒髪が少し揺れ、隙間から真っ赤な夕日が差し込んでいた。
黒と紅のそれは何か異国の人が作った織物のようにみえた。
そして…
「チェックメイト。」
力強い言葉が響き渡った。
-To be continued-
文章:U
最近のコメント