Chess-themed Fiction:I.F.(Isolated ♟ had a friend called ♕)
♯02 Isolated pawn
◇♙◇
僕はチェスが好きだ。
ボーンのあの臆病な潜在力も、
戦場を飛ぶナイトの華麗さも、
世界の半分を否定しながら間隙を掻い潜るビショップの純真さも、
強力に睨みを効かせてキングを追いつめるルークの強固さも、
後半で打って出るキングの勇壮さも、その全てが好きだ。
もちろん大好きな駒は最強のクイーン。
傍若無人な優雅さを備えた最強の駒。
戦場を翻弄する大いなる女王。
私は彼女に恋をしていると気づくまでにそう時間は掛からなかった。
そう、これは僕の初恋の話だ。
◇♟◇
事の起こりは僕がこの村へ来たときから始まっていた。
両親を早くに亡くした僕は親類の家を転々とし、
小学生の時に医者をやっているという叔父が住む東北の寒村へと引っ越してきた。
雪深く、米と秋刀魚が名物の小さな港町。
その街の丘の上にある白い病院が僕の家だった。
転校では失敗してしまった。
暫くすると僕が笑顔を向けても、
クラスの皆は変わった怪物でも見るような眼で私をとらえた。
夏休みが終わるころには
彼らは気味悪そうな表情と薄ら笑いで僕を見るようになっていた。
そういうわけで学校になじめない僕は、
すぐに帰宅しては叔父の部屋に通うようになった。
TVゲームもインターネットも、CDすらも知らないこの時代の例にもれず、
叔父の趣味はクラシックと本の山であり、
本棚(医学、心理学等の専門書はもちろん、児童書も多かった)と
レコードプレーヤーから適当に抜いてPoltrona Frauのソファーに飛び込み、
モザイク模様の板の乗ったテーブルで夕飯までの時間を過ごすのが日課になっていた。
そして暫くたったある日、
実る稲が朝日と同じような黄金色になった秋に
僕は彼女と出会った。
-To be continued-
文章:U
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