Chess-themed Fiction:I.F.(Isolated ♟ had a friend called ♕)
♯03 Zugzwang?
◇♟♕◇
彼女はモザイク模様の板を指して言った。
「それはChessboardというものよ。」
「ちぇすぼーど?」
「そう、Chessboard。チェスボードね。
チェスというゲームを遊ぶための舞台よ。」
「ふうん…?」
「見たところ、君は退屈しているのでしょう?
よかったら遊んでみない?」
いつの間にかテーブルの向こうに座っていた彼女は
テーブル下のチェストから小さな真鍮製の金具の付いた木箱
(それは僕には絵本の中の宝箱のようにみえた)を出し、
テーブルの上に置いた。
「ほら、これが駒。将棋みたいな感じかな…?
君は将棋を知ってる?」
「うん。いちおうは…」
「そう。じゃあ話ははやいわ。」
言うが早いか宝箱の中で眠っていた動物たちを手に取り、
ひとつひとつモザイク板の上に立たせていく。
「こことここにロバさんを置いて…と。
ええと、カンガルーさんはクマさんの左?だよね…。」
次々と置かれていく人形達。
「トラさん取りにくいわ…まったくやんちゃなんだから。」
彼女はその細くて長い人差し指をぺろり、と舐めて
それから木箱に嵌めてあるトラの人形を摘まんで盤の四隅に置いた。
僕はただ、彼女のその少し湿った指が王子様のキスのように
眠れる人形を次々に起こしていく様子を見ていた。
「さあ、はじめましょう。」
人形達を置き終えた彼女は僕の目をまっすぐ見ながら言った。
鼓動の高鳴りを悟られないように、僕は無言で2度頷いた。
それが彼女との最初の記憶だ。
-To be continued-
文章:U
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