Chess-themed Fiction:I.F.(Isolated ♟ had a friend called ♕)
♯04 Chess clock
それから僕は少しづつチェスを指すことになった。
キャスリング、プロモーション、チェックメイト、ステイルメイト…
すぐにルールを覚えた僕はチェスの世界に魅了されていった。
◇♟♕◇
「これは?」
僕は目覚まし時計が二つ引っ付いたような横長の箱を指さしていった。
それぞれの時計の上部には一つずつ押しボタン型のスイッチがついている。
「これはチェスクロック。自分の持ち時間をはかるときに使うの。」
ほらこうやって、と彼女は箱の上部についているボタンに手を触れた。
すると片方の時計だけが動き出した。
「打つ前にはこうやって押して、自分が打ち終わったら…」
同じボタンにもう一度彼女の手がそっと触れると、
先程動いていた時計が止まり、もう片方の時計が動き出した。
綺麗な指だった。
「こうやってもう一度押すと、相手側の時計が動きだすわ。
時計の上についている赤い旗が倒れたら時間切れで負け、
公式試合をするときとか、Blitzなんかに使うの。」
「ブリッツって?」
「Fast chessっていう早く指すことを楽しむチェスの遊びかたよ。だから…」
…だから、今日はそれで遊びましょう。
彼女は最後まで言わずにテーブルの下から”宝箱”を取り出し、
真鍮製の金具を外した。
そこには森の仲間たちの格好をした勇敢な兵士たちが眠っていた。
彼女は人差し指をぺろり、と舐め、いつものように駒を並べ始めた。
僕はその様子から何故か目を離せなかった。
「さあ、君も手伝って。」
僕はやはり2度頷いて駒を並べ始めた。
鼓動はどんどんとドラムのように鳴っていた。
それはまるで眠れる兵士達を起こす銅鑼の音のようであった。
「Scoreは読めるようになった?」
「…大体。」
「そう。じゃあ、指した手を謳いながらいきましょうか。」
そういって、彼女は子豚に守られたロバを勇ましく前に出した。
「Nf3、よ。」
うなだれた冴えないロバは彼女の手の中で光り輝いていた。
彼はもうしっぽのことなんて気にしてない。
-To be continued-
文章:U
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