Chess-themed Fiction:I.F.(Isolated ♟ had a friend called ♕)
♯09 Ending
それから彼女の姿をみることはなくなった。
僕はといえば相変わらずだったが、
チェスも含め、叔父の棚には読みつくせない程の本があったし、
体があまり丈夫な方ではない僕は
田舎町の男の子の遊びに参加しようとも思わなかった。
(真冬に川で水泳だなんて今でも正気の沙汰とは思えない)
本を片手にチェスボードに駒を並べているときなどは
彼女の声が聞こえるような気すらしていた。
しばらくして高学年に進級した僕は
クラブ活動に参加することとなった。(強制なのだ)
体も弱く、これといった特技も友達もいない僕が選んだのはチェス部。
外国文学が趣味という若い先生と
数人の大人しそうな生徒が在籍しているだけの小さな部だった。
もちろん、僕のクラスからの参加者はいない。
大人しそうに見えた彼らは僕がチェスを指せると知ると、
すぐに親愛の情を持って接してくれた。
はじめは戸惑っていた僕も少しづつ打ち解けていった。
(この時の事もいずれ機会があれば書いておきたいと思う)
それに呼応するようにクラスでの”薄ら笑い”は消え、
そして僕は、皆と遊ぶ、皆とゲームをする楽しさを知ったのだった。
ここは東北であり、雪深い日の昼休みや放課後、
室内で遊びたい人にはことかかないのである。
今でも時々胸の疼きと共に彼女のことを思い出す。
真っ赤な夕日をまとった綺麗な指と唇。
そしてまた、こうも思うのだ。
彼女のそれを味わうことのできる人間は
この世に誰一人としていないのだ、と。
人は皆、そんな経験をするものなのだろう。
◇♙≧♕◇
そして、そこへすわると、
全世界が、空といっしょになるところまで、
目のまえにひろがっていました。
『プー横丁にたった家』
-Isolated ♟ had a friend called ♕:fin?-
文章:U
最近のコメント